2022.03.24

東京でもパリでもルノー アルカナのハイブリッドがベストな選択肢だと言える理由



  • もうすぐ発売の電動SUV! RENAULT ARKANA R.S.LINE E-TECH HYBRID 試乗記 その1

    • 輸入車として初めてのフルハイブリッドとなるスタイリッシュなクーペSUV、「アルカナ」がいよいよ日本に上陸する。日本ではお馴染みのフルハイブリッドだが、そこはルノーである。F1譲りのテクノロジーも投入しつつ、都市部から郊外まで、気持ちのいい走りを実現するまったく新しいシステムを採用しているのだ。世界の都市交通事情に精通し、モビリティジャーナリストとしての顔も持つ筆者が、日本でもアルカナを積極的にオススメしたい理由を語る。
      REPORT●森口将之(Moriguchi Masayuki)



    •  今思い出してみても、最近の自動車業界のターニングポイントは2015年だった。ディーゼルゲート事件発覚と、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)21でのパリ協定合意が、どちらもこの年の出来事だからだ。
       いわゆる電動化の流れは、一部地域やメーカーの戦略も加担して、ここから一気に加速していった。
       とはいえそれ以前から、電動化に熱心に取り組んでいたブランドはある。ルノーはそのひとつだ。アライアンスパートナーの日産自動車や三菱自動車ともども、量産電気自動車(EV)に積極的だった。
       コンパクトカーのゾエは、欧州EV販売ランキングで2020年にベストセラー、昨年は2位に入り、同じ2021年の欧州での電動化比率は実に30%にもなる。
       でも「E-TECH」と呼ばれるルノーの電動化は、すべてがEVではない。ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)もある。
       全車EV化という対抗手段を選んだ一部の欧州ブランドもあるが、フランスに何度も足を運んだ僕から見れば、ルノーの選択は納得の決断だと感じている。



       例えばパリ。紀元前3世紀には人が住みはじめていたというセーヌ川沿いの都市は、今から150年以上前に当時の市長ジョルジュ・ウセーヌ・オスマンの手により、現在の街並みがほぼ完成していた。
       多くは集合住宅で、駐車場は不足気味。一時期EVシェアリングが展開されたこともあって、道路脇の充電スポットはそれなりにあるものの、自宅や会社で充電するのが前提のEVやPHVにとって、暮らしやすい場所とは言えない。
       先進国の首都であり、コロナ禍で一段落しているとはいえ一極集中の大都市であるうえに、インフラ面でも東京と共通している部分が多いのだ。



       そんなパリを含め、かつてこの国の乗用車の半数以上に積まれていたのがディーゼルエンジンだったが、ガソリンエンジンに比べてCO2排出量は少ないものの、有害排出ガスの後処理に手間がかかる上に、冒頭に書いたディーゼルゲート事件もあって、主役の座から退きつつある。
       一部のブランドのEV化はこれに対応する措置でもあるのだが、ルノーは違った。多くの欧州勢が敵視してきたHVを、充電不要というメリットから注目し、ディーゼルに代わるパワートレインとして位置づけ、これをベースとしたPHVも開発した。
       アライアンスを通じて、日本製HVに最も多く接した欧州ブランドというポジションもあるが、現実的な視点を忘れず、ユーザーに寄り添い、社会情勢の変化に柔軟に対応する姿勢はフランスならではであり、ルノーらしいと感じた。



       このシステムを日本に初めて紹介する大役を担うのが、ルノー初のクーペSUVでもあるアルカナだ。
       これまではプレミアムブランドにしかなかったクーペSUVの登場は、昨年1月に発表された新戦略「ルノリューション(Renaulution)」でルカ・デ・メオCEOが掲げた「ボリュームからバリューへ」の具現化と言えそうだ。
       Bセグメントのキャプチャーが2020年の欧州ベストセラーSUVになり、乗用車全体でも6位に入ったことでわかるように、彼の地でもSUV人気は盤石だ。でもデザインやライフスタイルにこだわりを持つフランス人であれば、さらなるカッコ良さを求めたいと思うはず。



       アルカナはそのキャプチャーと同じCMF-Bプラットフォームを使うが、車格はCセグメントに属する。同じCセグメントに属するメガーヌ用プラットフォームより軽量であるうえに世代が新しく、ADAS対応などに長けているというのが理由だ。
       ホイールベースは2720mm、ボディサイズは4570×1820×1580mmで、同じフランス生まれのSUVプジョー3008と比べると全長とホイールベースは長く、全幅はやや狭く、全高は低い。
       でもアルカナの形の魅力は、数値以上の部分にある。ルーフからリヤスポイラーまで滑らかな曲線でつなげたルーフラインはきれいで、バランスも取れており、メガーヌを思わせるワイドなフロントマスク、豊かに張り出したリアフェンダーともども、まぎれもないクーペになっている。



       日本に導入されるグレードはR.S.ラインで、フロントにF1タイプのエアインテークブレードを内蔵し、ホイールは赤いワンポイントが入った専用デザインとなる。試乗車は黒いボディだったので、シルバーや赤のアクセントが映えて、かなり精悍な雰囲気だった。
       インテリアもR.S.ラインということで、インパネにはカーボン調パネルや赤いラインを入れ、シートは細かいドットの入ったレザーとアルカンターラのコンビと、メガーヌR.S.を思わせる装いだ。



       それでいてキャビンは広い。後席は座面の高さや背もたれの角度など申し分ないのに、身長170cmの僕ならルーフに頭が触れることはなく、足元にも余裕がある。480ℓの容積を持つラゲッジスペースも奥行きがたっぷりしていた。
       オンラインで話を聞いたプログラムダイレクターによれば、このパッケージングはミドルクラスハッチバックのパイオニア、ルノー16(セーズ)からインスピレーションを得たとのこと。ホイールベースもセーズとほぼ同じにしたという。
       スタイリッシュでありながらユーティリティにも長けたパッケージングは、ルノーの経験が成せる技でもあったのだ。







       このボディを走らせるハイブリッドシステムもまた、ルノーらしい。1.6ℓ直列4気筒エンジンにふたつのモーターを組み合わせ、ドグクラッチを用いた電子制御マルチモードATを組み合わせ、前輪を駆動する。ギアボックスはエンジンが4速、メインモーターが2速で、合わせて15通りのモードを実現しているという。
       このシステムにはF1のエンジニアも関わっている。ゆえに1エンジン2モーター、ドッグクラッチを用いたトランスミッションという内容になったそうで、制御のソフトウェアも提供したとのこと。走りと燃費を最高水準で両立するという点では、F1もロードカーも同じという説明に納得してしまった。
       アライアンスの中でHVと言えば、日産のe-POWERを思い出す人もいるだろう。それを使わなかったのは、110km/h以上では効率が落ちるので欧州ではデメリットが多くなるという、これまた説得力のある答えが返ってきた。



       発進はモーターのみで、途中からエンジンが始動するというマナーは他の多くのHVと共通。アクセルから足を離すとエンジンが停止して回生が始まり、ブレーキを踏むと回生が強まることも同様だ。
       ただしフィーリングは、多くの人が抱くハイブリッドカーのそれとかなり違う。メカニカルなギヤボックスのおかげか、エンジンの吹け上がりはリニアで、右足を緩めると変速が行われ回転が落ちるなど、いい意味でHVであることを忘れさせる小気味良さなのだ。
       ガソリン車と同じドライブモードもあり、短距離ながらモーターのみで走行するボタンも用意されるが、持ち味を発揮するのはスポーツモード。レスポンスが鋭くなるだけでなく、減速時にもエンジンを回して次の加速に備える。走り好きな人が開発を担当したのだろう。



       SUVとしては全高が低めなのに対しホイールベースは長く、トレッドは広めなので、乗り心地はCセグメントにふさわしい落ち着きがあり、身のこなしに腰高感はなく、ルーテシアやメガーヌに近い感覚でコーナーをクリアしていけた。クーペSUVにふさわしい。
       WLTCモード燃費は22.8km/ℓと、似たようなサイズの国産ハイブリッドSUVと比べてもトップレベル。でもアルカナは燃費だけがウリなのではない。美しいシルエットや躍動的な走りもある。
       パリも東京も公共交通が発達している。そんな環境の中でも、クルマで移動したくなる。HVという枠では語れないキャラクターの持ち主なのだ。


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