2016.05.16
RENAULT PRESSE TROISIÈME PARUTION MAI 2016 Cycle of Life:変わり続ける愛と街
フランス革命100年記念の1889年に建てられたエッフェル塔は、当時賛否両論でむしろパリの景観を乱すものという意見が多かった、という話は有名である。今となってはエッフェル塔がないパリを想像する方が難しい、なくてはならないアイコンだ。時にして斬新なものは受け入れられるまでに時間がかかる。そして、古いものを大切にしていく心との共存は非常に難しいことだったりする。
しかし、パリの人たちは知っている。この「ルノー ルーテシア」が停まっているアレキサンダー3世橋が、エッフェル塔と同時期に建設され、当時新しかったものが時を経て古いものに変化し、パリの街を成してきた素晴らしさを。
そして、これは何も建築だけに限った話ではない。 “LOVE”をテーマにしたルーテシアにちなみ、「新しい愛」について考えてみよう。
以前にも紹介したが、1999年、フランスでは“PACS(パックス)”という耳慣れない連帯市民協約が制定された。簡単に言えば同棲以上、結婚未満の関係。成年に達した二人の個人の間で、持続的に共同生活を営むために交わされる契約だ。パックスは結婚よりも制約が少ない。フランスでは離婚はとても面倒くさい手続きを伴い、費用もかかる。しかしパックスは別れるのが簡単、と言ってしまうとどこか軽いけれども、決してそういうわけではない。離婚率の高いフランス特有の法案とも言え、離婚によって精神をすり減らしてしまう人も多く、そんな精神的負担を軽減することも目的の一つとなっている。
そして、性別関係なしにパックスの権利を得られるのも大きなポイント。つまり、このパックス制度のおかげで、すべての人々が平等に“愛”の形を自由に選べるようになったのだ。街は文明の発達とともに進化し続けていく。その傍ら、古代から人を愛することを営んできた人間にとって、愛の形も時代とともに変わり続けていく。
アレキサンダー3世橋に佇むルーテシア。
地下1階のオラファー・エリアソンによる歩廊。
そんなことを考えながら、古いパリを出発点とし、新しいパリのスポットを西から東へドライブしてみることにした。アレキサンダー3世橋からエッフェル塔を眺め18世紀末に想いを馳せながらスタートしよう。セーヌ川から西にクルマを走らせると、高級住宅街を抜け大きなブローニュの森が見えてくる。進んでいくとその一角に突如現れるフランク・ゲーリー設計のルイ・ヴィトン財団美術館は、3,600枚のガラスを使った大きな船のようなイメージだ。2014年の秋にオープンして以来、週末には長蛇の列ができるほどの人気。展望台に上がるとガラスと鏡の反射のダイナミックな建物に圧倒され、昔ながらのパリの街並みを見渡すことができる。
次は2015年にヴィレット公園にできたフィルハーモニー・ド・パリへ。設計はジャン・ヌーヴェル。何千もの鳥が飛び立つ瞬間をイメージしたようなホールの屋根は圧巻だ。
ホール内も曲線のみでデザインされた不思議な空間と話題になっている。公園内にあり、運河も流れているこの公園は、春から夏にかけてパリの人々の憩いの場になる。
ルイ・ヴィトン財団美術館はデートにも人気。
近代的な外観のフィルハーモニー・ド・パリ。
こうして空いた市内を週末にドライブしていると、マルシェに巡り合うことがある。知らないカルチェ(地区)のマルシェは、ちょっとした旅行気分を味わいながら買いものできるのが楽しい。マルシェでは自宅用に花束を買い、友達へのプレゼントに花屋でブーケを作ってもらう。
マルシェに並ぶ彩り豊かな春の食材。
冬のマルシェにはなかったフラワースタンド。
そんな風に使い分け、週末には何かと花々が登場するのがパリらしい風景。そして、長く寒く暗い冬から春の訪れをいち早く感じることができるのもマルシェなのだ。プチポワやフェーヴ(グリンピースやそら豆)などを初物として味わう。カゴいっぱいに買い込んだ野菜や果物は都会に住む彼らにとって季節を知る宝物。それをトランクに乗せてまた走る。
買い込んだ春の食材は夕飯のご馳走に。
美しいブーケを作る花屋の店員さん。
マルシェでたっぷり買いものした後は、ランチを外で食べるフランス人がとても多い。買った食材は夜のご馳走のためなのだろう。食の新しい流れとして定着したのがオーガニック食材で生活するスタイルだ。季節のもの、土地のものを食べるテロワール的な考え方はもう当たり前となっている。
春を感じさせる白い花たち。
色鮮やかなオーガニック食材のランチ。
そんな中でオーガニックレストランも続々とオープンし、特に春のランチメニューはカラフルで季節感たっぷりで人気が集中する。レストランでは男女4人のグループが楽しそうに食事をしていた。彼らが夫婦、恋人、それともパックスなのか。どんな関係なのかは予想がつかない。けれども、そんなことは大きなお世話だろう。何より大切なのは、彼らが幸せそうな笑顔で過ごしているということだ。
ワインとともにランチを楽しむ男女たち。
週末に花が登場するパリらしい風景。
※掲載情報は2016年5月時点のものです。