2016.05.17
RENAULT PRESSE TROISIÈME PARUTION MAI 2016 PARIS JOURNAL:パリのコーヒー事情
「フランス人はメンタルをカフェで整える」。ある時は出勤前にカウンターで立ったまま1杯、食後に胃を落ち着かせるために1杯、打ち合わせや待ち合わせの合間、宿題や愛の語らいのそばなど、幅広く使われてきたパリのカフェ。そこで味わう小さなカップのエスプレッソは、気分を落ち着かせたり気分転換をしたり、そんな役割を果たしていた。映画などで見るパリにはカフェは欠かせないのだ。ただ、その味についてはあまり語られる機会がなかったが、ここ数年では、それぞれのアプローチから味を追求する店が続々と増えている。これは世界中に押し寄せている、いわゆるコーヒーのサードウェーブの影響。左岸の『カフェ・ドゥ・マゴ』や『フロール』を老舗としたパリのカフェ文化は、確実に次の広がりを見せている。
新しく解釈されるフレンチロースト。
ハリオやカリタなど日本産のコーヒー機器が人気。
上り調子に増え続けている現在進行形のパリのカフェ、その共通点を挙げてみようと思う。まずは、どんな国のどんな生産者がどのように作ったのかがわかる、シングルオリジンのコーヒー豆を選んでいること。次に、メニューの軸はエスプレッソにあるものの、ハンドドリップ、サイフォン、フレンチプレスなど、豆の個性を最大限に引き出す淹れ方を追求していること。もうひとつは、酸味や香りにこだわった浅めのローストによって豆の特性を引き出す技術と専門的な知識を持ったスタッフ、またはバリスタが存在すること。このような特徴から、カフェ利用客の間でコーヒーを味わうという関心が高まってきた。
ベルヴィル焙煎所はアトリエのような空間。
この焙煎機からパリの新しいコーヒー文化が始まった。
3年前に2人のフランス人共同オーナーが立ち上げたベルヴィル焙煎所は、「納得のいくコーヒー豆を探し出せないならば自分たちで焙煎する」という強い想いから始まった。「世界中に知られるパリの“フレンチロースト”というコーヒー文化は大切だけれども、私たちは旧式で古臭いそれを “上質でアロマが効いた美味しいもの”というイメージに変えていきたい」。苦味の効いた深煎りのフレンチローストは、その特徴である苦さがコーヒーの香りの良さを消してしまうこともあった。そこから脱却し、香り豊かなコーヒー豆を選び、それぞれに合った焙煎をする。豆の個性が引き出されたフレンチローストは、豆本来の香りをしっかりと確かめながら、酸味の濃淡を味わうことができる。こうしてパリにおけるコーヒー豆の多様性を表現し、新しいコーヒー文化を牽引する存在こそ、ベルヴィル焙煎所なのだ。
味と香りのバランスが崩れないよう毎日チェック。
※掲載情報は2016年5月時点のものです。