2023.03.31

KANGOOのすべて カングー専用ファクトリー訪問レポート:すべてのカングーはここで生まれる。

  • Report:佐野弘宗/Sano Hiromune
    Photo:平野 陽/Hirano Akio

  •  Maubeuge Construction Automobile

  • フランス北部、ベルギーとの国境の街、モブージュ。
  • カングー専用工場「モブージュ・コンストラクション・オートモービル」はここにある。
  • 世界を走るすべてのカングーはここで生み出されるのだ。
  • そこは、カングーづくりにかける職人魂と誇りで満ちていた。

  •  カングーファンにとっての聖地といえば、フランス北東部のベルギー国境近くにあるモブージュ工場かもしれない。同工場の正式名は「モブージュ・コンストラクション・オートモービル(以下、MCA)」といい、かつては乗用車を生産していたが、1989年にカングーの前身であるエクスプレスを生産するようになってからは小型商用に特化。2007年にカングーが2代目になると、カングーの生産はMCAに集約された。

     現在もMCAでは3代目カングーだけが生産されており、その乗用車版と商用車版、標準ボディとロングボディ、ガソリンとディーゼル、そして電気自動車(BEV)という全バリエーションが作られている。正確にいうと、欧州で販売される日産タウンスターとメルセデス・ベンツ・シタン/Tクラスも生産されるが、知っている人も多いように、これらもカングーの一部デザインを変えただけのOEMである。つまり、MCAは正真正銘のカングー専用工場であり、日本に正規輸入されたカングーも、世代を問わずすべてモブージュ産だ。


  •  本誌取材班がMCAを訪れるのも今回で3回目(筆者個人も2回目)となる。初めてお目にかかるジャン-フィリップ・ダヴォー工場長からは「ようこそ!ここに着任した時から“そのうち日本から取材が来るよ”と言われていました(笑)。最初は意味が分かりませんでしたが、日本のカングーに関する記事を見たり、カングージャンボリーの盛り上がりを知って理解できました。」と、掛け値なしの歓迎をしていただいた。

  •  日本特有の「カングー愛」を欧州で最も理解してくれているのもMCAの皆さんである。今回案内してくれた女性スタッフも「黄色とか、カラフルなカングーが流れてきたら、だいたい日本仕様と分かります(笑)。それにピンクのカングー(2011年に30台限定で発売されたクルール)は今も語り草です。」と教えてくれた。


  • MCAの工場長を務めるジャン-フィリップ・ダヴォー氏。
    ドュエ工場(フランス)のボディワークチームリーダー、組み立て部長、品質部長、タンジェ工場(モロッコ)の生産部長を経て、2021年より現職。
    就任以来、日本のメディアの来訪を心待ちにしていたとか。


  •  クルマのボディの大半は今も昔もプレス造形した鉄板を溶接して作られる。MCAにはルノーグループ最大級のプレス機が立ち並ぶのも自慢で、カングーに使われるプレス部品も、一部の強化部材を除いて、99%が内製とか。メインのプレス機は初代カングー生産開始時にやって来た5,400t だが、2018年には3代目カングーのために新建屋を建設。そこにアライアンス最大となる6,600t のプレス機も導入された。


  • 5,400tや6,600tものプレス機を備えているのもモブージュの特徴のひとつ。
    ヨーロッパでは、これほど大きなプレス機をもつ自動車工場は珍しい。
    高品質なボディパネルの生産と高効率化を図るルノーのこだわりが見て取れる。


  •  多様な車種の混流生産が一般的な現代の自動車工場において、同じ形のクルマだけが延々と流れるMCAの生産ラインはかなり珍しい。ボディの長さに加えてスライドドアの数、バックドアの違い、窓やピラーの有無(新型カングーの商用バンにはセンターピラーレス仕様も登場)、さらには日産版やメルセデス版もあるので、ボディだけでも、その仕様数は4,000種類にのぼるという。

     また、1週間に1台の割合でホワイトボディを抜き取った品質チェックを実施しているのもMCAの特徴である。ご存知の通りカングーは商用と乗用のふたつの顔を持っており、ただの商用バンとは一線を画す品質基準で作られている。パネルの合わせ品質も、ルノー、日産、メルセデスそれぞれの基準があるそうで、品質チェックも個々のブランドに合わせた基準で行なわれているという。一見すると同じクルマが単純に流れているだけと錯覚しそうになるMCAだが、実際には下手な混流生産より緻密で複雑なオペレーションで生産されているのだ。

  •  個人的には2011年以来のMCA訪問となったが、当時は遠巻きに見ることができた塗装ラインも3代目カングーのために刷新されたという。現在は品質管理とフレキシビリティ、環境対策のために完全にシャットアウトされた空間になっており、見ることは叶わなかった。

    •  ただ、コーポレートカラーに塗装したい法人需要やマニアックな某国の限定車(笑)などのために、別注カラーをライン塗装できるシステムは今も健在だ。前回訪問時は10台だった別注カラーのミニマムロットも今は5台。カラーカタログには約150色が用意されているという。もっとも、そのすべてが即納というわけではなく、採用実績のないカラーは試塗装などで最大18ヵ月かかるというので、ルノー・ジャポンの限定車企画担当者は要注意である?


      •  いわゆる最も自動車工場らしい最終組み立てラインを見ていると、女性スタッフが多いことに気づく。聞けばMCA従業員の女性比率は3割と、ルノーの工場でも高め。女性を増やすのはルノー全体の大目標だが、女性にも優しい職場であることを積極的に宣伝しているMCAは、その成功例のひとつだという。

         きめ細かいカスタマイズに対応する架装メーカーを最終組み立て工場の敷地内に設置したのも、ルノーではMCAが初めてだった。敷地内の純正架装メーカーは社名をかつての「ルノーテック」から「Qストマイズ」とを変えているが、その役割はこれまで以上に重要になっている。

         そのQストマイズ(MCA支店?)の敷地は約4,000m2で、33台分のワークスペースがある。従業員数は現在37名。年明け早々の取材となった今回は少し閑散としていたが、年末には500台の「ラ・ポスト(フランス郵便車)」の生産でてんてこ舞いだったとか。ちなみに取材時に荷室内に保護パネルを架装していたのはレンタカー、棚をあつらえていたのは某電機メーカー向けという。

        •  Qストマイズの仕事はこうした本格的な特別架装車だけではない。盗難防止アラームなどの純正アクセサリーの取り付けもあるし、さらには「日本仕様の最終仕上げ」もQストマイズが行なうのだ。日本仕様はナンバーステーや補助ミラー、そして輸送用ボンネット保護シートなど特有の装備が多いからだ。また、クレアティフとゼンに装備されるサイドモールも本国ではオプション(それも結構レア)で、これもQストマイズの担当という。いずれにしても、日本にやってくるカングーはすべて、このQストマイズ経由で出荷されるわけだ。日本のカングーファンは、決してQストマイズに足を向けて寝てはいけないということである。


        • 読者のみなさんであれば、この写真を見ただけで何を生産している工場かわかってしまうかもしれない。
          日本仕様に採用される堅牢なダブルバックドアも、徹底した品質管理のもとに生み出されているのだ。


        •  新型カングー導入に向けて、MCAには4億5,000万ユーロ(約640億円)が投資された。前記の最新プレス機や塗装ライン刷新もその一環である。こうしてMCAに積極的な投資が行なわれる背景には、新型カングーへの期待のほか、ここが新しいBEV事業体「エレクトリシティ」の一角であることも無関係ではない。将来的にはモブージュにドュエとリュイッツを加えた3工場が一体となってルノーBEV事業の中心となることになっている。

        •  そういえば、先代ベースの「カングー ゼン」がルノー初の量産BEVでもあったし、先代で10%だったBEV比率は、この2023年初頭の取材時点では19%、年末までには約3割に高まる見込みという。さらに、新型ではメルセデスや日産ブランドでも、乗用バージョンにもBEVがある。

        •  もちろん、エンジン版のカングーも需要がある限り生産される予定だが、MCAはルノーにとってBEV時代に向けた最前線というわけだ。冒頭のダヴォー工場長も「(2025年発売予定の)新型BEVの “4” の生産が始まったら、また取材に来てください。」とおっしゃっていた。

        •  最後に、フランス旅行ついでに聖地巡礼を考えているカングーファンに耳寄り情報である。まずMCAでは残念ながら、現在は一般見学用プログラムは用意していない。モブージュ自体も観光地とはいえず、地元出身のスタッフの方も「第二次大戦でほとんど破壊されて、史跡のようなものは非常に少ないのです。」と語る。ただ、パンとチェダーチーズと卵、ジャガイモを混ぜて焼いた名物料理「ウェルシュ」はなんとも食べ応えがあって美味しい。また、モブージュの隣のカンブレーは「ベティーズ・ドゥ・カンブレ」という伝統的なミントキャンディで有名だ。

    • Qstomize
      すべての日本仕様はここを通る


      • かつては「ルノーテック」と呼ばれていたビジネスユニットが、さらなる役割を負った上で「Qストマイズ(キューストマイズ)」と名を変えた。
        主な業務のひとつが顧客から注文されたカスタマイズを施すこと。
        ラ・ポスト(郵便局)の配達車両や消防車両や警察車両はその代表的なものだ。
        そのほか、日本仕様の補助ミラーやサイドモールやライセンスプレートベースの取り付け、輸送中の傷防止のラッピングなども手掛けている。



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