2023.03.31
KANGOOのすべて Product Story/ダイレクトなハンドリングを味わってほしい
カングーは多くの魅力を持つクルマだが、絶対に欠かせないポイントのひとつに「走り」がある。歴代カングーはそのシャシー性能で、レジャーやアウトドア趣味を持たない好事家の心もワシづかみにしてきた。
カングーの歴代エンジンは、良くも悪くも絶対的な性能では必要十分の域を出るものではなかった。それは新型の1.5L ディーゼルと1.3L ガソリンターボも同様である。一方でシャシー性能は、食パンのような(?)背高ボディに似合わず路面に吸いつく安定感、さらに下手なスポーツカーを蹴散らすほどの旋回性能を披露してきたのだ。別項にもあるが、新型カングーの走りも、その伝統に恥じない高度なものである。特に先代比でロールは明らかに小さくなり、ステアリングはより正確に、身のこなしはより俊敏になった。
そんな新型カングーのシャシー設計を取りまとめたのがジル・アンジョラス氏だ。彼が働くのはパリ中心部から西に直線距離で約30kmにあるヴィリエール-サンフレデリックという町。そこにはルノーの「LCVテクニカルセンター」がある。ちなみにADAS担当サミルディン・モハメド氏の仕事場も同じだ。
新型カングーの基本骨格となっているのはCMF-C/Dというルノー日産三菱アライアンスが共用するモジュールプラットフォームである。CMF-C/Dの基本設計は日産が主導したとされており、日本でいうと日産エクストレイルや欧州で販売されるキャシュカイの最新モデル、あるいは三菱アウトランダーなどもCMF-C/Dを土台としている。ただ、CMF-C/Dは共同開発ゆえに、ルノーからの意見や要望も当然ながら盛り込まれている。
「運転していただければ、新型カングーの走りが飛躍的に乗用車ライクになったことがお分かりいただけるはず。これまでにないほどロールが小さくなっているのも、お気づきかと思います。」とアンジョラス氏。
「CMF-C/Dはもともと非常にロールの小さい設計になっていますが、さらにカングーではリアトーションビームも新開発して、ロールを抑制してします。この強化された新しいトーションビームがリアを安定させて、オンザレール感覚のハンドリングを実現しているんです。ちなみに基本仕様のロール剛性は、フロントが先代の65Nm/1°から75Nm/1°に、リアが先代の95Nm/1°から108Nm/1°に、それぞれ高められています。また、新型カングーは商用モデルに最大荷重1t(先代は最大850kg)のモデルや電気自動車のE-TECHエレクトリックも用意しています。これら荷重の大きなバリエーションでは、トーションビームやスタビライザーも専用品です。」
CMF-C/Dといえば、フロント周辺の高剛性化にも数多くの工夫が施されているのが特徴だ。
「フロントサブフレームが従来のラバーマウントからリジッドマウントとなって、マウントの数も増えています。また、乗用車のエスパスやタリスマン(ともに日本未導入)、そしてメガーヌなどとの共通プラットフォームとなったことで、これら上級乗用車の部品が自由に使えるようになったことも大きいです。実際、フロントサスアームのマウント部分にはエスパスと共通のとても堅牢な部品が使われています。」
もっとも、新型カングーに乗っていると、単純にロールが小さくなっただけではない気もした。ロールは小さいが、アシの動きそのものはよりしなやかになっている。サスペンションストロークがより大きくなり、クルマ自体もより低重心化しているようにも思えた。しかし結論をいうと、それはまったく錯覚だった。
「重心高もサスペンションのストローク量も基本的に2代目カングーと大きく変わっていません。運転していて重心が低くなったように感じられたとすれば、それはロール剛性アップのほかに、トレッドが拡大した影響だと思います。」
新型カングーは先代と比較して、全幅が30mm拡大しているが、トレッドはそれ以上にワイド化されている。日本仕様同士の比較でいうと、先代のフロントトレッドが1,520mmでリア1,535mm。新型ではそれぞれ1,580mm、1,590mmと大きく拡大しているのだ。
「商用と乗用でシャシーの基本部分に変わりはありません。荷重に応じて、バネとショックをそれぞれ最適にチューニングしているだけです。ブレーキもディスクそのものは先代と同じですが、ブレーキキャリパーを前後とも新開発として、ブレーキフィールは大きく向上しました」
そんな新型カングーのシャシーの中でも、当のアンジョラス氏が最も進化したと思うポイントは一体どこなのか? その疑問を直接アンジョラス氏にぶつけてみた。
「ステアリングですね。新型ではステアリングレシオが 17:1から15:1 へとクイック化されて、操縦安定性とダイレクト感が向上しました。また、今回はパワーステアリングの進化も効果が大きいと思います。これまでのコラムアシスト式に代えて、デュアルピニオン式のラックアシスト式となりました。新しいパワーステアリングは効果絶大で、飛躍的に操縦安定性が向上しました。」
カングーといえば、商用モデルまで含めると、膨大なバリエーションが用意されている。荷重も違えばシャシーチューンも変わる。これらすべてのバリエーションをひとつひとつ仕上げていくとすれば、気が遠くなるほどの作業である。
「もちろん、あらゆるバリエーションを実験しています。まずはデジタルで約2年、その後の実地試験を含めると、すべてをやり切るなら3~5年かかります。ただ、それをやるからこそ、パーツも効率よく共通化できます。また、今回はブッシュも含めて、エスパスやメガーヌなどの上級モデルと共用できるのが大きなメリットでした。特にエスパスの部品を使えたのは本当に良かったです。」
LCVテクノセンター
車体システム開発
エキスパートエンジニア
ハンドリング先行技術開発エンジニア、ハンドリング&ブレーキング開発エンジニアおよびLCVハンドリング開発ドライバーなど、一貫してシャシー開発を手掛けてきたハンドリングのスペシャリスト。